2017/11/24

ADPKDについての復習と新しい試み ②

前回、簡単なADPKDに関しての概論を話した。

ある時に、のんびりとコーヒーを飲みながら歩いている時に後輩の先生からこのように尋ねられた。仮に後輩をTとして自分をMとする。

T「先生に教えていただいたことをよく見ながらやっていたら、自分の外来の人にADPKDっぽい人がいました。でも、30歳で腎機能もGFR<60未満なんです。なんか、トルバプタンも使うといいという報告もあるし、この人の治療をどうすればいいですか?」

M「いい質問ですね!本邦で使える薬も含めて見ていきましょ!最近、これに関する論文も出ているので是非見てね!」

ADPKDは個人的にはやはりとっつきにくいなと思う時も多い。それは、やはり患者予後や治療プランや方向性をある程度自分が知っておく必要性がある。

※まず、脱線するが最近の報告でFGF23とADPKDの話題が取り上げられている。FGF23上昇と腎サイズ上昇は関連があり、腎サイズ上昇は腎予後不良に直結する(CJASN 2017)。

治療について
・血圧管理
 −厳密な血圧管理はADPKDの進展を予防する可能性を示しており、薬剤としては投与禁忌がなければACE-IやARBは初期の血圧治療薬として推奨されている(理由としては、RAA系の活性上昇と細胞外液量増加のため。)。特にタンパク尿があるものには効果があるとされ、HALT-PKD trialではARBとARB+ACE-IでADPKD進展を比較しているが、差はなかった(NEJM 2014)。

※まず、血圧管理で120-130/70-80mmHgを目標に禁忌がなければACE-IやARBを1剤でいいので入れる。

・塩分制限
    −塩分制限に関しては2g/日以下を推奨しているものもある。塩分制限の効果としては、尿中Na排泄増加→腎疾患悪化につ上がることがわかっているためである(CJASN 2011)。これは、先に述べたHALT-PKD trialでも証明されている。ADPKDでは高血圧になる傾向もあり、それに対しての塩分制限は重要である。

・飲水励行
 −これは、原理としては血清のバソプレシン濃度を抑えてADPKDの嚢胞の進行を防ごうとしている。ある先行研究からは水を3L/day以上飲むと尿浸透圧を抑え、ADH分泌も抑えるとしている。ただ、腎不全の進行した症例などは飲水によって低ナトリウム血症が助長される場合もあるため、気をつける必要性がある。3L飲むのは大変そうである。。

・スタチン投与
 −高脂血症は慢性腎不全患者の冠動脈病変の進展に寄与する。また、CKD患者の腎機能の進行をスタチン投与で遅らせることができる報告もある。ADPKDのデータは少ないが、RCTでプラバスタチン(メバロチン)が小児や若年のADPKDの進行抑制に寄与したという報告もある(CJASN 2014)。

・トルバプタン
 −トルバプタンが効果がある機序としては、詳細は図に示すが、嚢胞の増大にはcAMP上昇が関与している。そのcAMP上昇を抑える治療としてトルバプタンが用いられる。
杏林大学ホームページより

トルバプタンとADPKDの関連でまずは覚えておく必要があるのが、TEMPO trial(NEJM 2012)である。研究の詳細は割愛するが、世界129の医療機関でのRCT第3相試験である。1445人に対して961人にトルバプタン投与、484人がプラセボに振り分けられ3年間見た研究になる。腎容積の増加に有意な差が認められた研究である。日本人グループでの解析も行われているが、その結果でも効果があったという。

トルバプタンに関しての詳細は次回の話題に述べるが、今回はREPRISE trial(NEJM 2017)に関しての話題である。
この前提として、トルバプタンはTEMPO trialの結果を受けて承認される国もあったが米国のFDAでは承認されなかった。その理由としては、やはり副作用である。
副作用は肝機能障害、多尿、夜間頻尿などであった。
また、TEMPO trial ではGFR≧60の患者を対象に見ている研究であった。

今回のREPRISE trialでは、平均GFR41(30-50)の中等度〜重度腎不全に対するADPKD患者のトルバプタンの作用を見ている。詳細は割愛するが、一年の期間で見てCKD stage4の人であってもトルバプタンの効果があるということが示されている。副作用に関しても肝機能上昇は投与群で5.6%で非投与群で1.2%であった。ただ、全体を通しての副作用には有意差はなかった。FDAはこの結果を見てどう動くのか?また、この論文の感度分析では高齢者での効果は薄く、非白人でも効果は薄いという結果であった。
なので、現時点では非高齢者(55歳以下)のADPKDの症例で腎不全があってもトルバプタンを内服することができる場合には適応になる可能性はありそうである。

・mTOR阻害薬
 −これに関しては、2010年のNEJM,NEJM2に論文が出ている。シロリムスとエベロリムスを用いて見ているが現状では腎機能障害を遅らせるという報告には至ってはいない。
mTOR阻害薬が用いられる理由としては、ADPKDではmTORパスウェイの活性化が促進していることがあり、これを阻害したらどうだろうというのが治療薬の選択となった。

他にもソマトスタチンやアミロライド、メチルプレドニンなども選択肢にはなっている。
今回は、特にトルバプタンの話題に触れたかった。

では、会話に戻る。
M「最近の論文でGFR<60の人に対するトルバプタンの使用も有用性は認められているね。あとは、トルバプタンを使用するとかなりの部分で患者さんに協力してもらわないといけないことも多くなるから、それが大丈夫であれば患者さんと相談して始めよう。あとは、保険や金銭的なものも。これは、次回に話すね。」

T「ありがとうございます。とてもスッキリしました。」

ADPKDは遺伝性の疾患であり、一人を見つけたら家族も考えて治療・検査も行わなくてはならない。

2017/11/19

ADPKDについての復習と新しい試み ①

今回はADPKDについての話題に触れたいと思う。


自分の患者でもADPKDの人は多いが、遺伝性疾患であるので患者のケアももちろんであるが家族のケアも非常に重要な疾患である。
下図のように進行性の病気であることもわすれてはならない。




まず、今回はADPKDに関してお話しするが、ARPKD(常染色体劣性多発性嚢胞腎)もしっかりと認識しておくことは重要である。


常染色体優先遺伝の場合は下記。
常染色体上に存在する一対の遺伝子の一方に異常があれば発症する。
なので、やはり家族へのケアは注意する必要性がある。


大塚製薬サイトより


原因:遺伝子異常が原因
ADPKD:PKD1遺伝子とPKD2遺伝子が主役になる。このPKD遺伝子は腎臓ならば尿細管の液体のながれを感知し、肝臓ならば胆細管の胆汁の流れを感知する。流れを感知して、順序よく並んで流れをスムーズにいくように働きかけている。
※PKD1から作成されるものがPC1(polycystin1)、PKD2から生成されるものはPC2である。


※PKDの違いによるものは下記に示す。

杏林大学Homepageより
杏林大学Homepageより



この遺伝子異常が生じると、順序よく並べなくなり嚢胞が生じる(図)。


その際に治療で重要になるのが、cAMPである。
cAMPは抗利尿ホルモン(バソプレッシン)の作用を細胞内に伝える働きがある。
正常細胞ではcAMPは細胞増殖を抑制するが、ADPKDでは嚢胞細胞の数を増やしてしまう。

★また、ADPKDの発生に関しては遺伝子異常はもちろんであるが、下図に示すように多彩な原因で生じてくる。その一つが肥満である(図)。(JASN 2007


症状に関してはほとんど無症状の場合が多い。
血尿が30%程度におこり、嚢胞感染や嚢胞出欠などがある際に生じる背部痛を契機に気づかれる症例もいる。

検査:下記が診断基準となっている。

つまり、検査ではCT検査やMRI検査が重要となる。
ここで、除外すべき疾患として記載されているように、それらの疾患の可能性はどうなのかを常に考えることは重要である。
家族内発生をしっかりと認識する事は一番重要である。


また、併存症の管理が大事である。
致死的になるものは脳動脈瘤破裂であり、だいたい10%程度の人に見られるものなので、ここに関しては把握しておく必要がある。
杏林大学Homepageより


2部構成に今回はしようと思う。
今回の点で大事なのは、遺伝子異常はもちろんのことADPKDを悪化させるものはないか?家族は大丈夫か?である。




2017/11/18

少しアフェレシスと透析について PAについて③

今回が一応アフェレシス祭り(こう呼ばれたので)の最後になる。


今回の話題はLDL吸着療法である。

まず、LDL吸着療法はPlasma adsorberがリポソーバー(LA-15、40)の血漿吸着療法である。
吸着の対象となるのはLDLコレステロールである。


保険適応の疾患に関しては以下の3つである。
①家族性高コレステロール血症
②閉塞性動脈硬化症
③巣状糸球体硬化症

である。

①は想像がしやすいと思うが、スタチンなどの薬剤投与によっても高脂血症(血清総コレステロール250mg/dl以下にならない)が持続する場合は適応になる。
これは週1回までの適応になる。

疾患について簡単に概説をする。
家族性高コレステロール血症:
LDL受容体異常による高コレステロール血症をきたす常染色体優性遺伝の疾患である。
遺伝型はホモ型とヘテロ型がある。
 -ホモ型は新生児から著明な高コレステロール血症をきたし全身の動脈硬化をきたす。
 -ヘテロ型はホモ型より予後良好だが、70%が65歳までに死亡する。


治療に関してはホモ型とヘテロ型で異なる。2017年に動脈硬化ガイドラインがでているので、参考にして頂きたい。
・ホモ型であればスタチンを投与し治療目標に到達しない場合には定期的にLDLアフェレーシスなどを行う。(下図)




・ヘテロ型であれば、スタチン投与を行いPCSK9投与などを行い効果不十分であればLDLアフェレーシスの適応となる。(下図)



②閉塞性動脈硬化症
これに関しては、PADに関してまとめた以前の記事があるので参考にしていただきたい。
保険請求できる回数は一連につき3ヶ月で10回までとなる。

適応としては下記を全て満たすものである。
・Fontaine分類Ⅱ度以上の症状を呈するもの
・薬剤療法により、血中総コレステロール220㎎/dl,あるいはLDL-C値140mg/dl以下まで低下しない高コレステロール血症
・膝窩動脈以下の閉塞、または広範な閉塞部位を有するなど外科的治療が困難で、かつ従来の薬物療法では十分な効果を得られない場合。

LDL-Cを低下させることが一つのメカニズムであるが、そのほかにも酸化LDLの低下作用と血管内皮細胞改善に優れていたとの報告もある。
過去にはスタチン+LDLアフェレーシスとスタチンのみを比較したもので、併用した場合のが良かったという報告も出ている(Ann Intern Med 1996)。


③巣状糸球体硬化症
日本からの報告が多い。
機序に関しては明確にはわかっていないが、酸化LDLの低下や関連する炎症性サイトカインの除去を行うことができ、ネフローゼに伴う過凝固の状態の改善に寄与するのではないかと言われている。

条件としては
ステロイド抵抗性を示すネフローゼ症候群で、総コレステロールが250㎎/dl以下に低下しない場合が挙げられる。
保険請求できる回数は一連につき3ヶ月で12回までとなる。


LDLアフェレーシスの使用方法を示す。


何故、カラムが二つあるかに関しては、一つのカラムで吸着を行なっている際にもう一方のカラムは洗浄・賦活化を行なっているためである。

ちなみに用いるカラムのリポソーバーLAの
リポソーバー40:400mL容量カラム
リポソーバー15:150mL容量カラム
である。

LDL吸着療法の治療時間としては、
治療時間1.5~2.5時間
血液流量100~150ml/min
血漿流量30~45ml/min
目標血漿処理量3000~5000ml
である。

最後は簡単にであるが、LDLアフェレーシスについてまとめた。
アフェレーシスは奥が深いし、正直使いこなせていない。。ここを見て少しでもアフェレーシスの面白さ・奥深さがわかっていただければ嬉しい。





2017/11/10

少しアフェレシスと透析について PAについて②

ある時こんなコンサルトを受けたとする。



M医師「今、外来で診ているSLEの患者さんが薬物治療もしっかりと行なっているんだけど活動性が改善しなくて。透析治療で原因物質の除去ってできない?」


T医師「??(どうなんだろ・・、SLEに透析治療、考えたことないな。。)」


M医師「なんか、前に血漿吸着療法がいいみたいな話をきいたけど?」
調べてみよう。


前回話したように、SLEの症例にPAを行う場合にはPlasma absorberの選択が非常に重要である。


SLEでは
・イムソーバ
・セレソーブ
が選択肢になる。


簡単に原理をおさらいする。
イムソーバはPHとTRにわかれる。この違いは吸着原理の違いによるものである。
吸着リガンドは、下記のものになる。
 PH:フェニルアラニン
 TR:トリプトファン


吸着リガンドは何かというとイムソーバはポリビニルアルコールゲルからなる多孔質ビーズの単体に下図のように青い吸着リガンドがくっついているものである。


ASAHI KASEI homepageより

PHは免疫複合体、リウマチ因子、抗DNA抗体(図1)

TRは抗アセチルコリンレセプター抗体(図2)
を選択的に吸着すると言われている。


図1:PHによる吸着性能
ASAHI KASEI homepageより


図2:TRによる吸着性能
ASAHI KASEI homepageより




SLEに対してのPH膜は下図のように報告によっては、抗体除去率や症状改善に有用とする報告も多い。
ASAHI KASEI homepageより


なので、まずイムソーバをSLEに使用する際にはイムソーバTRを用いる際にはACE阻害薬に関しては、ブラジキニンの蓄積が生じてショックを生じる可能性があり禁忌となっているので注意する必要がある。




もう一つはセレソーブである。
セレソーブに関しては陰性荷電したデキストラン硫酸が陽性荷電の抗体とくっつき除去するものである。


SLEに関しての保険に関しては下記のものに該当する限り月4回算定できるとしている。
1:特定疾患医療受給者と認められたもの
2:血清補体価(CH50)の値が20単位以下、補体蛋白(C3)の値が40以下および抗DNA抗体の値が著しく高くステロイド療法が無効、または臨床的に不適当
3:RPGNまたはCNAループスと診断されたもの


M医師への答えはわかっただろうか?


SLEにおいて免疫抑制剤も発展しており、PAを行う機会はめっきりと減っているかもしれない。
ただ、腎臓内科医はしっかりとこのような選択肢ももつべきである。