2017/07/19

哲と凛

 7月18日、腎臓学会からメールがあった(写真は映画You've got mailより)。なんと、先の学会講演「よくわかるシリーズ」動画がオンデマンド配信されたという。




 こんなすごい時代に居合わせられて幸せだ。まさに「僕たちのキセキ」だなと思う。会員思いの学会の会員でよかった。12月22日までの限定公開なのは残念だが、「少年は老いやすく学成り難いから鉄は熱いうちに打ちなさい(写真)」という親心と受け止め、早めに視聴しておきたい。




 その鉄ではないが、「よくわかるシリーズ10」カルシウム・リンのご講演で、鉄の静注後に低リン血症になるとあった。以前に鉄と茶について書いたが、鉄とリンというのも意外な組み合わせだ。Oxfordなど教科書をみても原因一覧に載っていないので、エキスパートだからこそご存知の新しいトピックなのだろう。興味を持って調べてみると、ここ数年の論文がたくさんでてくる(たとえば、doi:10.1155/2015/468675)。

 有名なのは日本では未承認のカルボキシマルトース第二鉄(FCM;商品名はInjectafer®、Ferinject®)だ( doi:10.1136/bcr-2016-219160)。これはメガ用量の鉄を一度に投与できるのが特徴だ(鉄として50mg/ml、20mlで1000mg)。経口鉄を消化器症状で飲み続けられない人もいるから、便利だ。

 が、2008年にはすでにFDAが2.3%に低リン血症がみられると警告していた。多くは軽症だと思われていたが、オーストリアの大学病院でFCMを使用した患者さんの32%に0.6mmol/l(1.86mg/dl)未満の低リン血症がみられた(doi:10.1371/journal.pone.0167146)。なお欧州の論文はリンの単位がmmol/lになっているが、リンの原子量が31なので3.1倍すればmg/dlに変換できる。

 機序は、だいたいどの症例報告やレビュー(Neth J Med 2014 72 49)を見ても、FGF23上昇と、近位尿細管からのリン再吸収低下が示唆されている。FGF23がふえれば活性型Vit Dが減るので、余計によくない。もともとビタミンD欠乏があれば、いっそうよくない。補充しても正常化に数ヶ月要した例もある(Eur J Clin Nutr 2014 68 531、栄養不良も合併していたため)。

 FCMにとくに多いようだが、添加物のせいか鉄用量が多いせいかはわからない。ほかの鉄、たとえば日本にあるsaccharated ferric oxide(フェジン®)でも報告がある(Bone 2009 45 814;Bone誌に載せるのだから、腎臓内科が扱う領域はほんとうに幅広い)。FCMも、日本の製薬会社が開発や販売のライセンスをとっているし、そのうち市場にでまわるかもしれない。

 そうなれば、鉄欠乏性貧血はとても患者さんの数も多いし、たくさんの人につかえば潜在的にビタミンDが足りないなど副作用がでやすい人にも当たるから、注意深い観察が必要だと思う。Take home message(「よくわかるシリーズ」はたいていこのスライドで終る)?静注鉄を入れたらリンを測ろう。