2017/04/28

SAFE、CHEST、SPLITトライアル

 0.9%NaCl輸液は、生理食塩水といわれるがNa濃度もCl濃度も生理的ではないし、英語でノーマル・セーラインというが何がノーマルなのかよくわからない、というくだりはよく聞く(生理食塩水が嫌いな作者が歴史を詳述したClin Nutr 2008 27 179がよく引用される)。

 ただし食塩水の電離係数が0.93なので浸透圧が154+154の308mOsm/kgではなく286mOsm/kgと等張だ。それで赤血球は溶血しないし、SAFEトライアルで脳外傷患者にたいして低張のアルブミンより脳浮腫を予防し優れた結果を残しもした。

 そのSAFEトライアルではアルブミン、CHESTトライアル(NEJM 2012 367 1901)ではHESとの比較で勝ち残った0.9%NaCl輸液だが、これらのスタディがいずれもオーストラリア・ニュージーランドで行われていることに気づいた人も多いだろう。どうして輸液のスタディを組みまくっているのか知っている人がいたら教えてほしい。

 なお、オーストラリアはSAFETRIPS(Crit Care 2010 14 R185)という輸液の国際比較スタディまで組んでいる。2007年の各国ICUの状況を「スナップショット」にとるとこうなった。


 こうしてみるとアメリカで晶質液、イギリスで膠質液を主に使っていたのがとびぬけているが、近い隣国なのにオーストラリアがイギリスのように膠質液中心なのにニュージーランドは晶質液が中心だ。膠質液の種類でみても、オーストラリアはアルブミンとゼラチンが半々、ニュージーランドはほとんどHESと全然違う。おたがい主張してスタディで決着することにしたのだろうか。SAFETRIPSの続編で2014年の状況をまとめたFluid-TRIPSもそのうち発表されるので興味深い。

 さて、オーストラリア・ニュージーランドがつぎに送る0.9%NaCl輸液へのチャレンジャーがPlasmaLyte®で、2015年にSPLITトライアル(JAMA 2015 314 1701)として発表された。ニュージーランドの内科・外科ICUの患者約2000人を対象に、一定期間ICUごと0.9%NaClまたはPlasmaLyteだけを使ってもらった(バッグには「A液」「B液」とだけかかれブラインドされた)。結果、RIFLEでみてもKDIGOでみても透析依存でみても、AKI発症に有意差はなかった。ICUごと、敗血症や外傷の有無などで分類しても差がなかった。


 というわけで著者は「(やっぱり)晶質液のresuscitationは0.9%NaCl」と言っている(Crit Care Med 2016 44 1538)。批判は、投与された輸液量が2Lと少ないこと、患者さんの重症度がわりと低いこと、Cl濃度が測られておらず両輸液のちがいがどこまで影響しているかわからないことなどがあげられる(JAMA 2015 314 1695)。これらの課題をおそらく克服した、より大規模なPLUSトライアルが患者さんを募集中というから、また南半球からビッグな論文がでるのを期待したい。

 それまではどうしよう?SPLITはよく組まれたスタディだから、そこまで重症でない入院患者で2L程度最初に輸液するだけなら、かならずしも0.9%NaCl輸液を嫌う必要はないのかもしれない。理論上多少高Cl血症になり腎血流が減るかもしれないが、AKIや死亡率には影響せずにしばらくしたら戻るかもしれない。

 大量に輸液しなければならないときはどうか?前向きスタディは、ない。メタアナリシス(Br J Surg 2015 102 24)では、死亡率に差はない(図)けれどAKIや代謝性アシドーシスには弱い相関があった。



 いっぽう、最近出た一施設ICUの60ml/kg/d以上輸液を要したコホートの後ろ向きスタディでは、Cl負荷と死亡率には相関があったがAKI・代謝性アシドーシス(base deficit 2mEq/l以上)には相関がなかった。というわけでミックスした結果なのでなんともいえない。カリウムが入っているほうがいいとか、等張なほうがいいとか、個別になんとなく選ぶしか、ないか。

[2018年10月追加]Fluid-TRIPSがでていた(PLoS One. 2017 12 e0176292)。結論は、コロイド主体だった各国と地域で、英国を除き晶質液の使用が有意に増えていた。調査したICU全体の輸液では、80%が晶質液という結果になった。また興味深いのは晶質液の内訳で、0.9%NaCl液よりもより生理的な輸液(buffered salt solution, BSS)のほうが多かった。




 

高Cl血症とSIDアシドーシス

 0.9%NaCl輸液をつかうとアシドーシスになるとして、それがまずいのだろうか?0.9%NaCl輸液につて、賛成と反対の立場から書いた論文がKidney Internationalにでていた(賛成はKI 2014 86 1087、反対はKI 2014 86 1096)が、じつはどちらの立場もアシドーシスがわるいとはあまり言っていない。

 0.9%NaCl輸液がAKIや死亡率上昇に相関するスタディは、とくに集中治療の分野で多くだされている。ただし、ここでAKIの主因に考えられているのは高Cl血症による腎血流低下(動物実験だけでなく、健常者のボランティアでも示されている;Ann Surg 2012 256 18)で、そのメカニズムとしてマクラデンサを介したT-Gフィードバック(図はKI 2014 86 1096)が考えられている。ほかに、Cl貯留による浮腫・腎内圧亢進など。



 だから、アシドーシスじたいの害かどうかはわからない。実験動物にHClを点滴して高Cl代謝性アシドーシスにするとサイトカインやNFκBがふえるという論文もある(Chest 2006 130 962)が、アシドーシスにはヘモグロビンの酸素解離曲線を右に押し下げ(Bohr効果)組織の酸素化を改善する(Br J Anaesth 2008 101 141)ともいわれる。

 むしろ、アルカリ化でAKIを予防しようと心臓手術の麻酔開始時から24時間重曹を輸液した群と0.9%NaCl輸液した群を比較したスタディもあった(PLOS Med 2013 10 e1001426)が、かえってAKIと死亡率が悪化して、中断された。もっとも、このスタディでは重曹群でアルカローシスになったのに0.9%NaCl群でアシドーシスにはならかったので、重曹群でアルカローシスの害が出ただけのかもしれないけれど。

 高Cl血症とSIDアシドーシスはスチュワート的には同義かもしれないけれど、Cl自体の害とアシドーシスの害はまた、ちがうのかもしれない。



2017/04/27

腎機能障害のある若年男性を見て(MGH caseより) ③ 解答編

前回AKIとネフローゼ症候群を見た際に鑑別としては、、
・微小変化群+ATN
・膜性腎症+両側腎静脈血栓
・アミロイドーシス+円柱腎症
・微小変化群+AIN (2つともNSAIDs使用による)
・Collapsing FSGS


というところをポイントに置いた!

この症例では、微小変化群+ATNやcollapsing FSGSがやはり年齢や頻度からは考慮しなくてはならない。
その際にcollapsing FSGSは何に起因して起こったかを常に考える必要性がる。
原因として
・HIV関連腎炎
・他の感染症関連(パルボウイルス、サイトメガロウイルス、結核、リーシュマニア)
・自己免疫性疾患(SLE、MCTDなど)
・薬剤(パミドロネート、インターフェロン、アナボリックステロイド)
・悪性腫瘍(多発性骨髄腫、急性白血病、血球貪食症候群)
が挙げられる!

ここも、一つ覚えておくポイントである。

HIV関連腎炎では尿細管間質腎炎やタンパク関連物質で円柱形成が起き腎臓の腫大と高輝度様な所見を呈する。
→この所見は患者に見られたのと同様の所見である。

この患者はHIVのスクリーニング検査を行われ陽性になっている。
腎生検も行われCollapsing FSGSの所見であった。

よって症例はHIV関連腎炎でcollapsing FSGSであった。



ちなみにHIVと腎臓に関しては下記の知識を押さえておくといいのではと思う。

・ウイルス特異的な腎損傷は、HIVによる腎上皮細胞の直接感染、ウイルス抗原-抗体複合体から成る免疫複合体の沈着、およびHIV関連の血栓性微小血管症(TMA)によって引き起こされる場合がある。
・糸球体疾患の鑑別診断は、多くのHIV非固有の原因がある: DM腎症、アミロイドーシス、膜性腎症、微小変化型、IgA腎症など
ウイルス特異的な腎損傷は下記に分かれる。
HIV関連腎症(HIVAN):HIVは、糸球体、尿細管、集合管など、ネフロンのいくつかのセグメントの上皮細胞に感染する。
"古典的"徴候は重度蛋白尿(しばしば蛋白>3 g /日)、>2 mg / dLの血清クレアチニン値、および進行性の腎不全。浮腫や高血圧は稀。
超音波所見では、腎は正常ないし腫大しており、エコー輝度は高い。
糸球体の基本病変は、しばしば糸球体の虚脱を伴うFSGS(collapsing variant of FSGS)で、進行すれば糸球体内全域に硬化像が広がる。
上皮細胞の腫大、増生を認め、特に偽半月体pseudocrescents形成も認められ、増殖性変化、滲出性変化には乏しい。ほかに膜性増殖性糸球体腎炎、微小変化型、膜性腎症なども報告されている。間質尿細管変化が強いのも特徴の1つで、尿細管萎縮、間質の線維化、浮腫、リンパ球浸潤に加え、著明な尿細管の変性、再生像が認められる。
尿細管には多数の小嚢胞状拡張microcystic ectasiaが認められ、管腔内には蛋白様物質による円柱形成が認められる。今回の症例でもこれを認めている。

治療は、HAART療法、ACE阻害剤、およびグルココルチコイド。研究でネフローゼ域蛋白尿とHIVAN患者は非HIVAN腎疾患と比較してT細胞CD4数が有意に低かった。HIV-1 RNA量が400コピー/ mL未満でHIVANの可能性が低いのとの研究。
HIV関連免疫複合体病(HIVIC)


HIV関連TMA:血栓性血小板減少性紫斑病と溶血性尿毒症症候群が含まれており、血小板減少、微小血管症性溶血性貧血を特徴とする。腎障害は、一般的にAKIと蛋白尿と血尿。サイトメガロウイルス感染がTMAの病因に関与とも言われている。治療は、血漿交換療法、コルチコステロイド、脾摘、免疫グロブリン点滴、抗血小板剤などが使用。ウイルス抗原のレベルを下げるためHAART療法を開始。
薬剤関連腎疾患
・薬剤性急性間質性腎炎:HIV感染症患者の1つの腎生検の研究では、AINは、HIVAN、高血圧性腎症、およびFSGSに続いて4番目に最もよくみられる所見であった。
頻回に原因となる薬剤は、ペニシリン系、セファロスポリン、サルファ剤含有薬、キノロン、プロトンポンプ阻害薬、およびNSAIDがある。
AIN疑い例の最も一般的な治療法は、被疑薬の中止。
より早期の原因薬剤の中止は、ベースライン腎機能へ回復する。尿細管萎縮、間質性線維症は、早ければ薬物暴露後の2週間以内に発生する可能性がある。
コルチコステロイド(prednisone, 1 mg/kg, for 2 weeks with a taper)は腎不全が原因薬剤の中止後数日から1週間程度以内に改善しない場合に考慮することができる。



今回の症例検討から多くのものが学べるのではないかと思う。
自分も一つずつ考えながら診療を行なっていきたい。



2017/04/26

スチュワート法のエッセンス 2

 電気的な中性と水の電離定数がきまっているというルールのもとでSID、弱酸の総濃度、pCO2がH+濃度を決めるというスチュワート法の、使い勝手がいい道具はないか?いちばん簡単なSIDの指標は、ナトリウムイオンと塩素イオンの差だ。K、Ca、Mg、乳酸などの濃度はナトリウムと塩素イオンに比べてとても小さいので、このふたつだけでSIDとほぼ相関する(よくとりあげられる論文はICU患者で測ったJ Crit Care 2010 25 525、縦軸がSIDで横軸がNa-Cl)。



 HCO3-を生化学で測らない日本では、以前から次善の策としてナトリウムと塩素イオンの差が酸塩基平衡の推定に用いられてきた。これがHCO3-とAGの和になると考え、それぞれの正常値(24、12)の和である36より低ければアシドーシス、高ければアルカローシスと言う具合だ。
 
 しかしAGやpCO2を無視しており、これらだけで酸塩基を考えるのは乱暴な気もする。たとえば、Na-Clが下がっていても呼吸性アルカローシスを代償してHCO3-が下がっているかもしれない。AG開大アシドーシスでAGが増えたのと同量のHCO3-が減っていればNa-Clは動かない。これらの心配があってもなおNa-Clが使えるのか?

 結論から言うと、生理学アプローチといわれるボストン法とちがってスチュワート法には本来代償という概念がない(AJKD 2016 68 793)。あえて極論すれば、SIDが下がったらそれだけでH+が動くわけだから、アシドーシスは存在すると考える(SIDアシドーシスという)。臓器や組織がどうかではなく、水溶液とその溶質が主眼なので物理化学アプローチともいわれる。

 だからSIDとNa-Clが相関する以上Na-Clが低ければSIDアシドーシス、高ければSIDアルカローシスと言ってしまう。このあたり腎臓内科医としては抵抗があると思う。じっさい、AJKDにボストン法とスチュワート法を比べる前掲レビューがでたあとに、集中治療医と著者の腎臓内科医のあいだでNa-Clについてバトルがおこった(doi:10.1053/j.ajkd.2016.12.019、doi:10.1053/j.ajkd.2017.01.039)。

 AGについてはどうか?AGは測定できない陰イオン(UMA、unmeasured anion)の総和で、SIDのなかに入っている。だからSIDから測定できる陰イオンであるHCO3-とアルブミン(リン酸、乳酸を入れる場合も)を引いたSIG(ストロング・イオン・ギャップ)で推定する。AGという概念をスチュワート法に入れるためにSIGという言葉を作ったような感もあるから、AGとSIGが相関する(PLOS One 2013 8 e56635)といわれても「それはそうだ」という気がする。

 なお、完全に電離した陽イオンと陰イオンの差SIDのことをSIDa(apparentの略)といい、乳酸などの有機イオンを省いたものをSIDai(iはinorganicの略)という。それに対して、SIGを計算する時にSIDaから引くHCO3-、アルブミン、リン酸などをまとめてSIDe(effective)と呼ぶ。スチュワート法解説の多くはここに労力をさいているけれど、私も含めここで森に迷い込む学習者が多いと思う(結局AGで代用するのに)。

 個人的には、

1.電気的中性
2.水の電離
3.SID

 の三つがスチュワート法のエッセンスだと思う。それらがわかって、0.9%NaCl大量輸液でアシドーシスになることがスチュワート法の考えで理解できればいいのかなと思う。実際、スチュワート先生の啓蒙ウェブサイトにある初学者用チュートリアルもそういっている。もういちどふりかえると輸液のSIDはNa-Clでゼロ。血液のSIDは30-40あるから、混ぜれば血液のSIDがさがりSIDアシドーシスになる。

 一方、「生理的な輸液」と称され生理食塩水から「生理」の字をうばってしまったPlasmaLyte®などはSIDが正常だ(Na 140、Cl 98mEq/l)。ただしスチュワート的に平和なこれらの輸液がほんとうに0.9%NaClより優れているかは、別の話。つづく。


2017/04/25

スチュワート法のエッセンス 1

 生理食塩水を最近は0.9%NaCl輸液と呼ぶことがおおい。これを大量輸液すると高Cl-代謝性アシドーシスになる。婦人科手術で0.9%NaCl輸液を輸液した群とLRを輸液した群をくらべると前者でpHが下がっていた論文が有名(Anesthesiology 1999 90 1265)だが、この現象自体はよく知られているし、これがおこることに異論はない。問題は解釈と臨床的な意義だ。まず解釈についてふれる。

 高Cl輸液で代謝性アシドーシスになるのは、HCO3-が希釈されるというのがHenderson-Hasselbachの考え方で、裏返しはコントラクション・アルカローシスだ。それに対して、Cl-濃度が増えるからアシドーシスになるというのが、スチュワート法の考え方だ。複雑なギャンブルグラム(米国の生理学者 James L. Gamble先生が提唱した、陽イオンと陰イオンをつみあげた2本の棒グラフ;図はAJKD 2016 68 793)や計算式が学ぶ者のやる気を阻むスチュワート法だが、とりあえず上記の例で考えるとエッセンスはつかめると思う。




 スチュワート法は二つの原理を基本にしている(BioMed Research International 2014 Article ID 695281)。ひとつは電気的中性で、陽イオンの総和と陰イオンの総和は等しい。だから、血中Na濃度が140mEq/l、Cl濃度が106mEq/lのところにNa濃度が154mEq/l、Cl濃度が154mEq/lの輸液をすればCl-が溢れ、そのままでは身体が陰性に荷電してビリビリする。でも電気的中性はゼッタイだからそんなことはおこらない。

 そこでもうひとつの原理、水の電離定数がでてくる。すなわち、[H+]と[OH-]の積は25度で10のマイナス14乗と決まっている。このおかげで、Cl-が増えた分、水が電離しH+がふえてOH-が下がるようにバランスをとってくれる。この書き方がポイントで、スチュワート法ではCl-が増えたのが「主」、それによってH+がふえるのでH+の変化は「従」、と考える。

 Cl-が増えたことを、スチュワート法ではSID(Strong Ion Difference)が減ったという。Strong ionというのは生理的なpHで完全に電離しているイオンのことだ。たとえばHCl(塩酸)は強酸だから、pHがちょっと変わったからといってCl-イオンとH+がくっついて電気的に中性なHCl分子になったりしない。あくまで陰イオンとして居座るイメージだ。このように「強い」陽イオンと陰イオンの差がSIDで、これが減ればH+は増える(アシドーシス)し、ぎゃくに増えればH+は減る(アルカローシス)。

 このようにpHを規定する「主」の因子はスチュワート法では3つあるが、一番効くのはSID。ほかの二つは弱酸総濃度(HA ⇔ H+ + A-の平衡にあるHAとA-のトータルだからAtotと書く)、CO2分圧だ。スチュワート法では、この三つの値がわかっていれば、ほかに電離定数や平衡の定数などいれた4次方程式をとくことで理論上H+濃度を算出できる。参考までに載せておくと:

aH^4 + bH^3 + cH^2 + dH + e = 0
a = 1
b = SID + Ka
c = Ka x (SID - Atot) - Kw' - Kc x pCO2
d = - [KA x (Kw' + Kc x pCO2) - K3 x Kc x pCO2]
e = - (Ka x K3 x Kc x pCO2)

 これがスチュワート法の素晴らしいところでもあり、複雑すぎてついていけないところでもある。Hendersonらのアプローチ(最近はボストン法というらしい)ではHCO3-とpCO2、AGを求めるのにNaとClをいれた4つでよかったのに、スチュワート法では他にCa、Mg、Cl、乳酸、アルブミン、リンが要る。というか、測定できるイオンが増えれば増えるほど式は長くなる。それでコンピュータにプログラムを入れたり工夫しているわけだが、とっつきにくい。

 おもわず好きになってまうねずみのスチュワート(図)のように、フレンドリーなスチュワート法の道具はないのだろうか?つづく。
 




腎機能障害のある若年男性を見て(MGH caseより) ② 解答編

前回の投稿後で皆さん自分の考えはまとまっただろうか?


この症例は若年男性で入院22日前は腎機能も正常であった。入院15日前にはCr:1.7まで上昇し、ネフローゼ症候群・低アルブミン血症を呈していた。


ここでの問題点は
1:ネフローゼ症候群
2:急性腎機能障害
3:腎腫大

が重要な問題となる!

1:ネフローゼ症候群
ネフローゼ症候群は3.5g/day以上のタンパク尿・アルブミン低下(3.0g/dl以下)・末梢浮腫の基準に当てはまるものである。
ネフローゼ症候群では脂質異常症(生成と排泄の障害)、凝固異常などをきたすのは周知のことである。
ネフローゼ症候群をきたすものを考えるときに一次性なのか?二次性なのかを常に考える必要がある。
 一次性:微小変化群、巣状糸球体硬化症(FSGS)、膜性腎症などが鑑別に上がる。
 二次性:糖尿病性腎症、アミロイドーシス、ループス腎炎(V型や足細胞障害のあるパターン)などの全身性疾患が原因のもので生じやすい。

ただ、ポイントとしてあまりネフローゼ症候群と急性腎機能障害を合併することは少ない!

2:急性腎機能障害
急性腎機能障害に関しては、この症例ではKDIGOガイドラインでstage 2のものである。
ネフローゼ症候群で急性腎機能障害を共に呈する場合には、低血圧・敗血症・腎毒性物質投与などを伴っている場合を考える。また、一番多いのは微小変化群に伴う急性尿細管壊死(ATN : acute tublar necrosis)であり、腎生検した症例の25%にみられた。このATNを起こした患者は高齢で動脈硬化の進行した症例であった。そのため、若い症例ではきたすことは少ない。
また、先に述べたようにネフローゼでは凝固異常を呈し腎静脈血栓などは一つ注意をする必要がある。特に膜性腎症で多い(KI 2012)!しかし、両側の腎静脈血栓は鑑別には上がるが頻度は低い!
アミロイドーシスでは、骨髄腫のある患者の一部に円柱腎症(cast nephropathy)を呈する。
しかしこの症例では考えづらい(若年すぎて骨髄腫の合併の可能性低い)
NSAIDs使用により急性間質性腎炎(AIN : acute intestinal nephritis)を生じうる。この症例ではNSAIDsはアレルギーもあり使用してもいない!

collapsingのFSGSではAKIとネフローゼ症候群の合併は見られうる。

なので、まずAKIとネフローゼ症候群を見た際に鑑別としては、、
・微小変化群+ATN
・膜性腎症+両側腎静脈血栓
・アミロイドーシス+円柱腎症
・微小変化群+AIN (2つともNSAIDs使用による)
・Collapsing FSGS
となる!!

次回は、さらに鑑別を進めていく!



2017/04/23

MPO-ANCA関連腎炎とMMF

 ANCA関連血管炎といえば日本ではほぼMPO-ANCAで、ほとんどがご高齢の方の印象だ。だから疫学がちがえば、治療が違っていいのかもしれない。ステロイド、ときどきミゾリビンやアザチオプリン、リツキシマブはつかっても1回、うまくいけば半年後もう一回、というように副作用を避けながら丁度よいさじ加減で治療するのもひとつの考え方なのだと思う。

 中国でもMPO-ANCAが多いらしく、MPO-ANCAにかぎった関連腎炎の腎予後について一施設で215人の患者さんを後ろ向きに振り返った論文がCJASNにでた(CJASN 2017 12 142)。いろいろと、違いを考えさせられた。ただし平均年齢は52歳(37-59歳)と日本で見かける臨床像より若い。最初のCrは平均で3.8mg/dl、34%が最初に透析を必要とし、約4割に肺病変があった。

 全員がステロイドセミパルス(500mg methylprednisolone/dを3-6日間)+免疫吸着ないしDFPPをうけ、そのあとステロイドパルス単独、サイクロフォスファミドパルスの併用、またはMMFの併用を受けた。KDIGOの推奨といっても、米国や欧州など限られたところでしか行われていないのかもしれない。病理のタイプや腎機能などさまざまな層別化をしているが、治療群でいうとMMF併用群で予後がよかった。



 もちろん相関しかないが、同じグループが以前におこなったサイクロフォスファミドとMMFの有効性をくらべた試験(NDT 2008 23 1307)のコホートを流用しているので、意外とランダム化されているかもしれない。MMFをつかう可能性について考えさせられる。以前にMMFをANCAにつかった試みを調べて、寛解の報告はあったが欧米のものだった。

 このスタディは人種が近いとはいえ年齢が若いから、高齢の日本人MPO-ANCA血管炎にそのまま当てはめるとおそらく感染症は増えると思う。ただ、どう治療するか議論されているひとつの参考にはなるかもしれない。現にこの結果は、3月に東京でおこなわれた国際血管炎・ANCAワークショップでも発表されている。


2017/04/21

近位尿細管とアンモニア 3

 近位尿細管でつくられたNH4+は、まずミトコンドリアから細胞質にでるが、その通過にアクアポリン8が関与すると考えられている。アクアポリンといえば水チャネルだが、水のように小さくて電気的に極性のある分子は通す。ただしアクアポリン8遺伝子を削除しても尿中アンモニア排泄はかわらない報告もあるから、ほかの仕組みもあるのかもしれない。

 細胞質にでたNH4+が内腔に排泄されるにあたっては、細胞質と内腔の細胞膜にいくつかの調節の仕組みがある。まず細胞質にはNH4+をグルタミンにもどすglutamine synthetaseという酵素があってNH4+の排泄にブレーキをかけている。この酵素を削除した実験などから、アシドーシスのときにはこの酵素の活動が低下していると考えられる。

 細胞膜をどう越えて内腔にでるか?じつは正確にはわかっていない。以前はアンモニア分子が拡散すると考えられていたが、現在はNa+とH+を交換するNHE3チャネルがH+のかわりにNH4+を通すというのが通説だ。アシドーシスで近位尿細管のNHE3発現量が
ふえて、それにはアンジオテンシンII(AT1を介した)、エンドセリン1(エンドセリンB受容体を介した)がかかわっていることがわかっている。

 ただしNHE3遺伝子を削除しても尿中アンモニア排泄はかわらない(が、Na+再吸収がおちて血圧を保てない。10.1016/j.kint.2017.02.001)。ほかのチャネルを介しているのだろうか。たとえばK+チャネルは、NH4+とK+の流体力学半径が1.14オングストロームで同一で荷電も1価だからNH4+を通す。近位尿細管にはKCNA10、KCNQ1/KCNE1、TWIK-1などたくさんのカリウムチャネルがあって、基底側のNa+/K+-ATPaseだってNH4+を通す。これらを無差別に阻害するバリウムイオンで近位尿細管のアンモニア輸送は止まる。もっとも実験ではNH4+の排泄ではなく再吸収が止まった。
 
 じつはNH4+を通せるチャネルというのはたくさんある(アクアポリン1とか)。渋谷駅の交差点(写真)のような複雑な流れを一本の矢印で説明(図)できるのはすばらしいことだが、これからこの領域の研究がすすむと生理学の理解が変わるかもしれない、と思ったりする。




 
 おまけ:NHE3阻害薬Tenapanorのことを以前に書いた(便中のNa・P排泄をふやし透析患者さんでリン値をさげた)ので参照されたい。

腎機能障害のある若年男性を見て(MGH caseより)①

今回NEJMのケースが個人的にはとても勉強になったので共有したいと考えた。
一緒に振り替えれればと思う。



症例:34歳男性
現病歴:
・入院11週間前:発汗を伴う発熱、倦怠感、食欲低下、嘔気出現。(それまでは元気だった)
 症状は8週間でさらに悪化し、咳嗽、息切れが出現し尿の泡立ちを自覚。
・入院22日前:検査のために救急外来受診。採血でCre:0.8mg/dl、BUN:7mg/dlであった  
       (医師の診察は受けず。)
・入院15日前:体調不良、嘔吐、2日持続する胸痛で再度受診。胸痛は呼吸で増悪する。
  バイタルはBT:36.6, HR:76/min, BP:110/73, RR:16/min SpO2:95%(RA)
  両側の耳の聞こえづらさと首のリンパ節腫脹あり。
  呼吸音は両側消失、わずかなrhonchiが聞こえた。そのほかは身体所見問題なし。
★採血所見は下記にまとめて示す。
  胸部造影CT:明らかな肺塞栓像なし
  下肢静脈エコー:DVTなし
  腹部エコー:脾臓の軽度拡大、腎実質の輝度が両側上昇
  経食道心エコー検査:EF:60-65%、心嚢水なし。
  胸痛も持続し、発熱も上昇したため他院に入院。点滴投与で胸痛も翌日には改善。
  入院3日目に再度採血を施行。
  造影なしで腹部CT:軽度の傍大動脈リンパ節の腫大、腎実質の輝度の上昇、子宮の液体
  貯留あり




・入院7日前:下腿浮腫の出現し、フロセミドを開始。
・入院5日前:再度採血検査施行、フロセミド内服中止
・入院4日前:内頸動脈に透析カテーテル挿入し4日間透析を施行
・入院日:転院


入院日:
  下肢浮腫改善し、気分はいいと。
  7歳の時に車にひかれ難聴が進行している。
  


アレルギー:イブプロフェン(皮疹出現)
住まい:ニューイングランドに友人と住んでいる。
職業:労働者
家族:2人子供がいて、女性とは離れて暮らしている。
性交渉:同性・異性ともする。
輸血歴:なし
血液関連:6週間前に殴り合いをして血が開放創から入った。
喫煙:10本/日 15年間
薬物:マリファナを使用、
違法薬物なし
家族歴:母:冠動脈疾患、腎臓の家族歴なし
飲酒:なし


身体所見:
BT:37.2℃、HR:76、BP:138/93、RR:18、BW:82kg
下肢浮腫あり、その他は問題なし。


採血も採取








尿は
定性で比重:1.008、pH:8.0、尿糖:3+、尿蛋白:2+、尿潜血:1+
8g/Crの蛋白尿の所見


なにが腎障害を起こしているだろうか?? 


ポイントとしては
・若年の腎機能障害
・ネフローゼ症候群
・AKIの鑑別


次の回で解説の項目に触れたいと思う。



2017/04/20

近位尿細管とアンモニア 2

 近位尿細管にはいったグルタミンはいくつかの経路でミトコンドリアに入り分解される。ミトコンドリア内膜にはPDG(phosphate-dependent glutaminase)があって、

グルタミン → グルタミン酸 + NH4+

 でグルタミン酸になる。グルタミン酸はグルタミン酸脱水素酵素(GDH)により

グルタミン酸 → αKG(αケトグルタル酸) + NH4+

 で、クエン酸回路の中間体であるαKGになる。NH4+が外れたあとは、リンゴ酸になり細胞質にもどり、オキサロ酢酸からPEPCKでホスホエノールリン酸となって①解糖系からクエン酸回路、②糖新生のふたつの経路をたどる。その結果、それぞれ次式でグルタミン1分子あたり2つずつNH4+とHCO3-ができる。

2グルタミン + 9O2 → 6CO2 + 4HCO3- + 4NH4+
2グルタミン + 6H2O + 3O2 → グルコース + 4HCO3- + 4NH4+
 
となる。突然HCO3-がでてきたが、「〇〇酸」とかいてきたのはCOOH基のH+が電離した陰イオン(H+がついたものを「-ic acid」、電離したものを「-ate」と英語表記するが、よい訳語がない)だ。その分が結局HCO3-になると考えてよいと思う。

 代謝性アシドーシスなどでアンモニア産生がふえるときには、以上の反応が進むためPDG、GDH、PEPCK酵素の活性があがる。またミトコンドリアへのグルタミン取り込みをふやすグルタミンユニポーターもしられている。

 なお糖新生でできたグルコースはGLUT1、2を介して血中にでていく。アシドーシスになると糖新生がふえて耐糖能異常になりやすいという説もあるが、議論がわかれている。いずれにしても腎臓が糖を再吸収しているだけでなく糖新生もしている(ふだんでも血中にでていくグルコースの20%くらいは腎臓の糖新生由来とか;Diabetes Care 2001 24 382)、というのは意外と知られていない事実かと思う。砂糖工場だ(写真はSUGAR FACTORYラスベガス店)。

 こうして生まれたNH4+はどうなる?つづく。


無症候性の顕微鏡的血尿の診断方法でコストがいいのは?(Cost-effectiveness of Common Diagnostic Approaches for Evaluation of Asymptomatic Microscopic Hematuria)

腎臓内科の外来で紹介患者で多いのは何だろうかと考えたときに、やはり検尿異常で紹介となる患者が多い。
そのなかで、今回は無症候性の顕微鏡的血尿にフォーカスを絞ってみた。


今回はJAMAの論文に無症候性血尿を精査する時にコスト的にいいのは何かという論文があった。
健診などで偶然発見された無症候性顕微鏡的血尿が、生命予後に直接影響するか明らかでない。
しかし、イスラエルの報告では16–25 歳(60%が男性)1,203,626 人では0.3%に持続血尿を認め,その22 年間の経過観察では持続血尿例の0.7%,非血尿例の0.045%に末期慢性腎不全の発症を認め,糸球体疾患による腎不全のリスクが約32 倍に上昇していたという報告があり、慢性腎不全の発症リスクの上昇に繋がる事も言われている。


ただ、無症候性血尿で注意をいなくてはいけないことは尿路上皮癌の存在である。
精密検査を受けた無症候性血尿の1.4 - 6.0% に尿路悪性腫瘍が発見されたとの報告がある。


尿路上皮癌罹患年齢は男女とも45 歳ころから増加し始め,60 歳以上で急に増加する。尿路上皮癌の危険因子として,
40 歳以上の男性,喫煙,有害物質への暴露,肉眼的血尿,泌尿器科疾患の既往,排尿刺激症状,尿路感染の既往,フェナセチンなどの鎮痛剤多用,骨盤放射線照射既往,シクロホスファミドの治療歴
がある。


日本のガイドラインでは顕微鏡的血尿があった場合に悪性腫瘍の検索も含めた検査としては、腎膀胱超音波検査+尿細胞診 ± 膀胱鏡となっている。
膀胱鏡検査に関しては、上記の危険因子を有している高リスクには適応になる。


では、前置きが長くはなったが、今回の論文を見てみる。
無症候性血尿に対して悪性腫瘍の検索という点で効果的に費用をかけすぎずに検索する方法は何かを4つの検索方法を比較しているものである。10000人の患者に対して。


① CT検査単独
② 膀胱鏡のみ
③ CT検査と膀胱鏡検査併用
④ 腎膀胱超音波検査と膀胱鏡検査


結果として腎膀胱超音波検査と膀胱鏡検査が最も費用対効果(費用でみてがんの発見が高かった。)がよかったという結果になった。
腎膀胱超音波検査をCT検査に置き換えて再度見ているが、1人追加でがんが見つかったが莫大にコストは増加してしまった。


なので、現状は我々はこの血尿患者さんはリスクが高いのかな??と判断する必要があり、その中で必要な人には腎膀胱超音波検査と膀胱鏡検査の併用が検査ではいいのではと感じた論文であった。



2017/04/19

アミノ酸トランスポーター

 アミノ酸だけで20種類ありほかにもイミノ酸(プロリン)、GABA、オルニチン、シトルリンとか仲間もいれると数が多い。だからそれらを通すトランスポーターも種類がおおいし分類も複雑だ。分かる範囲、腎臓に関係ある範囲でまとめてみよう(参考にしたのはBiochem J 2011 436 193;Brennerなどにも詳細な解説があるので参照されたい)。

 まず近位尿細管でグルタミン取り込みに関係するB0AT、Y+LAT-4F2hc、LAT-4F2hc、TATを解読してみる。

 B0ATのATはアミノ酸トランスポーターのこと。Bはbroad、つまりいろいろなアミノ酸が通過できる。大文字なのはNa+に依存する、小文字なのはNa+に依存しない。ゼロは、電気的に中性のアミノ酸が通過できる(グルタミンは中性)。

 Y+LATもATは同じ。Y+は生理的なpHで陽性に荷電したアミノ酸(アルギニン、ヒスチジン、リシン)、Lはロイシンに代表される大型中性アミノ酸をそれぞれ通すということ。LATはY+を通過しない。どちらも大文字だからNa+依存。4F2hcは表面抗原の一種で(hcはheavy chain)、これとヘテロマーをつくることでY+LAT1もLAT1も機能できる。

 TATもATは同じ、最初のTは芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン)の通過を意味する。大文字だからNa+依存だ。なおB0、Y+のほかに陰性荷電のアミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)の通過を意味するX-、側鎖にN原子をもつアミノ酸を通すN、プロトンとアミノ酸の共輸送を意味するPなどがある。

 これらのアミノ酸トランスポータの変異でおこる腎疾患もあるし、近位尿細管の生理はこれからもっと注目されるだろうから、NHE3とかNBCe1とかと同じように少し親和性をもつと役立ちそうだ。下に主な疾患を整理しておく。

ジカルボキシルアミノ酸尿症
・興奮アミノ酸トランスポーター3(X-通過のアミノ酸トランスポーターのひとつ)、遺伝子名はSLC1A1

シスチン尿症
※尿中の結晶は下図(Renal Fellow Networkより)
・B0,+AT-rBAT(中性と陽性荷電のアミノ酸を通すヘテロマーのアミノ酸トランスポーター)、遺伝子名はそれぞれSLC3A1、SLC7A9

Hartnup病
・前述のB0AT1、遺伝子名はSLC6A19

LPI(リジン尿性タンパク不耐症)
・前述のY+LAT1、遺伝子名はSLC7A7

イミノグリシン尿症
・PAT2(H+とともにプロリンやグリシンなど小さな中性アミノ酸を通すトランスポーターのひとつ)、遺伝子名はSLC36A2

シスチン症
・シスチノシン(シスチントランスポーター)、遺伝子名はCTNS





2017/04/18

近位尿細管とアンモニア 1

 以前にアンモニアが腎臓でどのように移動しているかをまとめた。図にするとこういうことだ(Am J Physiol Renal Physiol 2011 300 F11より改変)。アンモニアは尿中のほかの溶質とちがってろ過されてくるのではなく、近位尿細管でつくられネフロンを流れる。ループ上行脚のNKCC2でK+のかわりに再吸収され間質にはいる。一部はまたループの下降脚から内腔に戻りリサイクルされ、一部が集合管から排泄される。




 尿中アンモニアと腎予後の論文(doi:10.1681/ASN.2016101151)が注目されてもいるし、これから「HCO3を保てばいい」という代謝性アシドーシス診療が変わるかもしれない。そこで、腎とアンモニアについて基礎から振り返ってみよう(参考にしたのは今年2月にででたPhysiol Rev 2017 97 465、下図も)。まずはアンモニアの生成から。




 以前に近位尿細管で1分子のグルタミンから2つのNH4+と2つのHCO3-が出来ると触れたが、グルタミンはどこからくるか?糸球体をろ過されアミノ酸トランスポーターB0AT1などでほぼ100%吸収される。そのうち分解されてNH4+、HCO3-になるのは一部で、余った分はY+LAT1-4F2hcやLAT2-4F2hcから間質にでていく(かわりにTAT1から芳香族アミノ酸が入ってくる)。略語が多いが、これらのついての説明は別に書く。

 代謝性アシドーシス、あるいは酸の負荷が過ぎる、低カリウム血症などでNH4+排泄を増やしたいときに近位尿細管細胞はどうするか?ろ過されたグルタミンだけでなく間質からもグルタミンを取り込むことがわかり、これは基底側にあるSN1とよばれるNa+依存グルタミントランスポーターによっておこなわれる。上記の条件下でSN1の近位ネフロンで発現範囲と発現量がふえることがわかっている。また取り込んだグルタミンが出て行かないようにか、Y+LATの発現は減る。

 とりこまれたグルタミンはどうなるか?つづく。

 

2017/04/17

近位尿細管はいま

 ネフロンで治療のターゲットになってきたのは主に遠位だ。そこが最終的なファインチューニングを行うので調節するのにちょうどよいからと思われる。いっぽう、再吸収のほとんどを担当し、腎臓でもっともエネルギーを消費するところでもある近位尿細管は調節するには難しい。近位尿細管で脱炭酸酵素を阻害するアセタゾラミドも利尿薬として使い勝手のよい薬ではない(代謝性アルカローシスで利尿薬を切れないときの最後の手など)。

 しかし、近位尿細管というフロンティアも研究でさまざまな標的分子がみつかっているからこれから薬ができるかもしれない。たとえば最近Kidney NewsのDetective NephronにeDKAが取り上げられた(エピソード18)SGLT2阻害薬は近位尿細管がターゲットだ。近位尿細管は尿酸の再吸収もおこなっているから、昔からあるベンズブロマロンにかわるあたらしい再吸収阻害薬なんかも開発されるかもしれない。

 という流れで読むと興味深い論文が、JASNにでていた(doi;10.1681/ASN.2016080930)近位尿細管でのHCO3-吸収はreclamationと呼ばれ、再吸収と呼ばれない。HCO3は、直接再吸収するのではなく、内腔の脱炭酸酵素によってHCO3がCO2になって細胞内に入り、それが細胞内の脱炭酸酵素CA2によってHCO3になり、NBCe1から身体に入る(いっしょにできるH+は尿に排泄されアンモニアやリン酸にバッファーされる、図は論文から)。




 論文では、上記の過程と別に、ろ過されたHCO3の15%程度は新しく見つかったNa/HCO3共輸送体であるMCDL-NBCn2を介して直接尿細管細胞に再吸収されているかもしれないという仮説を、数学的には証明した(図、論文から)。Na/HCO3共輸送体は何種類もあるから闇雲にブロックするわけにもいかないだろうが、近位尿細管の生理学が新たにわかることで新しい治療につながることを期待したい。





 [2017年6月追加]本文で予言した、URATに働きかける新しい尿酸降下薬は、実在する。Lesinurad(商品名Zurampic®)がそれで、URAT1の阻害薬だ。第3相試験で、Febuxostatとの併用群(400mg/d)がFebuxostat単独より尿酸値をさげ、痛風結節を縮小した(DOI:10.1002/art.40159)。200mg/dでは尿酸値の追加効果に有意差がなかった。やはり、近位尿細管はフロンティアだ。


2017/04/15

腎不全の人に対しての骨粗鬆症予防の利益や悪影響(Benefits and Harms of Osteoporosis Medications in Patients With Chronic Kidney Disease: A Systematic Review and Meta-analysis)

骨粗鬆症に関しては、ガイドラインが日本でも作成されている(2015年 ガイドライン)。

その中にCKD(慢性腎不全)と骨粗鬆症の項目が数ページある。
CKDは糖尿病と並ぶ骨粗鬆症のリスクであり、原因に関しては様々なものが言われており
・続発性副甲状腺機能亢進症、・ビタミンD欠乏、・低カルシウム血症・高リン血症、・酸化ストレス増大、・栄養障害
など多岐にわたる。

特に我々が悩むのは、CKDの骨粗鬆症患者への治療である。
上記ガイドラインの133ページはまとめた表があり、一度参照することをお勧めする。

今回、この話題を取り上げたのは、Annals of internal medicineにsystematic review and meta-analysisの論文が出たからである。

この論文では、CKD患者への骨粗鬆症薬の利益と悪影響を見ている。
骨粗鬆症薬は
・ビスフォスフォネート、
・テリパラチド(遺伝子組み換えヒトPTH製剤:フォルテオ)、
・ラロキシフェン(選択的エストロゲン受容体作動薬:エビスタやビビアント)、
・デノスマブ(RANKL阻害薬:プラリア)
を見ている。

2006年12月から2016年12月までのPubmedやCochraneのデータベースを用いている。

13の試験で見ており(n=9850)、6つは腎移植後の患者、3つはCKD stage3-5や透析を受けていた患者、4つは閉経後のCKD女性を見た研究である。

結果は
・ビスフォスフォネート:腎移植後の患者に対して中等度のエビデンスを持って骨密度の低下を遅くしたが、骨折や安全性ははっきりしていない。また、他の腎移植後以外の群でも効果は不明確であった。
・テリパラチド:骨密度や骨折のリスク低下は不明確であり、逆に安全性に疑問があるという結果が出た。
・ラロキシフェン:椎体骨折の予防にはつながるかもしれないが、骨密度の改善には寄与しない可能性が高い。
・デノスマブ:骨密度や骨折のリスク低下は不明確であり、逆に安全性に疑問があるという結果が出た。

今回の論文では、結局は骨粗鬆症薬のCKD患者に対する骨折リスクや骨密度や安全性は明確にはなっていないということがわかった。

今回の論文ではCKDにおける骨粗鬆症薬のエビデンスを明確にすることはできてはいないが、このような試みの積み重ねが次のエビデンスを作っていく。
自分も本当に頑張らねばと感じた論文であった。


2017/04/11

腎結石はライフスタイルや食事に影響する?(Dietary and Lifestyle Risk Factors Associated with Incident Kidney Stones in Men and Women)

今回の話題は腎結石についての話題である。
腎結石に関しては以前の記事を参考にしていただきたい。

いくつかの食事や生活習慣の因子が腎結石産生のリスク上昇の危険があることが知られている。
今回の論文はBMI、飲水摂取、DASH食、カルシウム摂取、糖分の多い飲料のリスク因子をPAF(population attribute fraction)、NNTP(number needed to prevent)で見ている。

データはHPFS(Health Professionals Follow-up Study)、NHS(Nurses Health Studies)から使用している。

192126人の患者で、6449人が腎結石が発症した。
HPFS,NHSⅠ,NHSⅡのデータで見ている。
PAFは糖分の多い飲料の4.4%から飲水摂取低下の26%まで分かれている。
10年以上のNNTPが飲水摂取低下の67からカルシウム摂取低下の556まで分かれている。

今回のものでは上記のリスク因子を減らすことで、結石の予防は可能であることがわかる。

ちなみに、
BMIに関しては30以上は21-22.9に比べて30%-109%リスクが高くなる。
飲水摂取増加は結石発生率の低下を起こす(RCTで56%再発を防いだとされている。)
フルーツ摂取、野菜摂取、低脂肪食は結石発生率を45%低下させる。
適切なカルシウム摂取は女性で27-35%、男性で44%の結石発生を低下させる。
動物性脂肪食制限や塩分制限は結石再発を51%低下する。
また、SSB(soda and punch)の頻回な摂取は結石の発生率を30-40%上昇させる。

結石は色々な種類があり、まずは成分分析が重要であり、それに応じた対応をすることが重要である。


2017/04/10

尿のアンモニアが予後予測につながる?(Urine Ammonium Predicts Clinical Outcomes in Hypertensive Kidney Disease)

ご無沙汰しています。
4月の投稿の初回です。間が空いてしまいすみませんでした。

今回の投稿は尿中アンモニアの話です(JANS 2017)。
アシドーシスの場合には一般的には腎臓(尿)からHNH4の形で排出される。
尿中アンモニアは尿の緩衝系で働いており、尿中アンモニア排泄の低下は慢性腎不全において代謝性アシドーシスを引き起こす(酸の排泄低下により)。
つまり、尿中アンモニア排泄低下→これがアシドーシス進行や早期の腎不全の予後予測マーカーになるのではということを見た研究になる。

今回の論文は1044人のAASK ( African American Study of Kidney Disease and Hypertension)のデータから取って見ている。
平均のアンモニア排泄量は19.5mEq(6.5-43.2mEq)であった。
排泄量を
①(low group):10.5mEq(4.2-14.8mEq)
②(median group):19.4mEq(15.6-23.5mEq)
③(high group):31.4mEq(24.9-53.1mEq)
に分けた。
結果では、③のグループ(ちゃんと尿中からアンモニアを排泄している群)に比べて、末期腎不全や死亡のリスクが、①のグループのHazard ratioは1.46(1.13-1.87)、②のグループは1.14(0.89-1.46)で上昇していた。



アシドーシスがない慢性腎不全群で見た場合に尿中アンモニア排泄を20mEqをカットオフとして、20以上排泄に比べて、20未満の排泄であれば1年でのアシドーシス発生の頻度が優位に高く、また末期腎不全や死亡のリスクが高かった。



この論文からは高血圧性の慢性腎不全において、アシドーシスがその際に存在していようがいまいが、尿中アンモニア排泄の低下は死亡や末期腎不全のリスクを上昇させると結論づけている。

尿中NH4は日常的に測定できるものではなく、尿AGが用いられており、それを代用とした研究も進んでいるのが事実である。