2016/06/20

Expand differential diagnoses 1

 I can't know everythingと言いながら、学ぶことが尽きないのは感謝すべきことで、少しずつ学び続けるのが専門医の道かなと思っている。腎機能低下とたんぱく尿で、脂質パネルをみるとHDLが10mg/dlを切っているときはLCAT(Lecithin-Cholesterol Acyltransferase)欠損症を想起すべきだと教わった。コレステロールのエステル化ができず非エステル化コレステロールがたまって糸球体に泡沫細胞、内皮細胞と基底膜の肥厚がみられる。腎外では赤血球脆弱による溶血性貧血、角膜混濁などを起こす(部分欠損で角膜のみ異常なのはfish eye diseaseと呼ばれる)。

 家族性で稀な小児科の病気かと思ったが末期腎不全に至るのは40-50才代、日本だけで17の遺伝子変異が確認されており、さらに孤発例もあるだろうから成人腎臓内科外来、とくに日本ではいつ来るかわからない。さらに自己免疫機序で抗LCAT抗体による後天性LCAT欠損と、免疫複合体によるとみられる膜性腎症でみつかった症例報告もある(JASN 2013 24 1305、この症例は20年来のSjogren症候群と、ネフローゼになる15年前からたんぱく尿の指摘があった)。治療はFabry病のように酵素を補充すればいいかというとそうではないようで、LCAT遺伝子導入前脂肪細胞の自家移植が試されているという。

 というわけで読み込んだはずの教科書の空白部分を開くと糸球体沈着病の類縁疾患で成人腎臓内科医も知っておくべきものがいくつかあった。Lipoprotein glomerulopathyは日本で1986年初報告され、APOE遺伝子変異の名前もSendaiとかKyotoとか日本の地名がついている。Apolipoprotein E(A、Bも)が内皮細胞に貯まり脂肪塞栓様にみえる。主に貯まるのはApoE2/E3、ApoE2/E4だが、ApoE2/E2(家族性III型高脂血症の場合)、ApoE3/E3(乾癬との合併報告あり)も。Fibratesが試みられる。

 Collagenofibrotic glomeropathy(collagen III glomeropathyとも)は、Collagen IIIの異常を起こす点でLMX1B遺伝子のhaplotype insufficiencyであるPatella-Nail syndromeと似ているが主病変は腎臓だ(多臓器への沈着もしられていはいるが)。常染色体劣性遺伝だが責任遺伝子は明らかでないようだ。緩徐に進行する腎機能低下とたんぱく尿で中年で気づかれることがおおい。これも初報告は1979年、日本で、アジアに多い(Clin Kidney J 2012 5 7)。糸球体はTrichromeで真っ青になり(内皮下、メサンジアル領域;PAS弱陽性)、電顕で特徴的なスパイラルフィブリルがみられる(図、烏龍茶エキス染色でよく見えるらしい)。


 Fibronectin Glomerulopathyは常染色体優性遺伝で内皮下、メサンジアル領域に異常fibronectinが蓄積する。約半数はFN-1遺伝子変異がみられるが他は不明だ。尿潜血、尿蛋白、高血圧、4型RTAなどを20-40才代で発症し、効果的な治療はなく数十年の経過で緩徐な腎機能低下をおこして末期腎不全に至る。初報告は1995年欧米だが、日本にも稀ながら報告はある。Late-onset adult cystinosisはリソソーム膜のシスチン輸送たんぱくをコードするCTNS遺伝子のマイルドな変異で、10代後半ころ、有名なFanconi症候群や角膜異常ではなくシスチン血症の糸球体沈着によるFSGS様のネフローゼで発症する。

 ここからは本当に稀でしかも子供の病気だが、Hurler症候群(デルマタン硫酸やヘパラン硫酸の沈着)、von Gierke病(glucose-6-phosphatase欠損)、Gaucher病(グルコセレブロシドの沈着)、Refsum病(分岐脂肪酸であるフィタン酸の沈着)、nephrosialidosis(neuraminidase欠損、糸球体と尿細管の細胞が空胞だらけになる)、I-cell病(ムコリピドーシスII型)など。Imerslund症候群(先天性コバラミン欠損;AmnionlessとCubilinでできた小腸でのビタミンB12吸収に特化したCubamという受容体の異常)もたんぱく尿がでるが腎機能低下はまれ、Jeune症候群(窒息性胸郭異形成症とも;新生児の病気、線毛に関係するIFT-80遺伝子、線毛運動に関係するダイニン重鎖をコードするDYNC2H1遺伝子が関連)も腎症がしられているという。