2015/05/01

Patiromer

 日本に帰って来て気づいたことのひとつが、日本のほうが圧倒的に多くK吸着剤が処方されていることだった。私はK吸着剤は効果が余りない、また腸管の壁に貼り付いて壊死を起こす副作用があると習って、処方することはほとんどなかった。CKD患者さんでRAAS inhibitorを増やしたいが高K血症があるときにはK制限の栄養指導をしたり利尿剤を追加したりすることが多かったし、透析患者さんで高K血症になりやすい場合は透析液のK濃度を変えることもあった。

 今日、今年はじめのNEJMにK吸着剤の有効性を示すスタディが出たと知った(NEJM 2015 372 211)。新薬はRelypsa社のpatiromerといい、Ca2+をcounterionとする非吸収性のK+吸着剤で、腸管からのK+排泄が最も行われる(内腔K+濃度の最も高い)遠位結腸で主に働くという。また、osmotic diarrheaのもとになるsorbitolの含有量が既存のsodium polystylene sulphonateにくらべ少ないそうだ。

 で、このpatiromerを1日2回内服すると、eGFRが15-60ml/min/1.73m2(ステージ3-4CKD)でRAAS inhibitorを内服している99%白人の高K血症患者さん(約半数が利尿剤も内服している)のカリウムが用量依存的に下がる。すなわち、下がりすぎたら減量する;止めると上がる。11%で便秘の副作用が出たが内服継続を忍容できたという(ただし対象患者さんの約10%が最初の4週間でloss of follow-upになっているからその分はわからないが)。1人が腸間膜静脈塞栓症で死亡したが薬との因果関係はないという。RAAS inhibitorを増やしたいが高K血症のためにできないような症例でよい適応かもしれない。

 しかし個人的にこのスタディで最も驚いたことは、対象患者さん243人のうち151人が「中等度から重症の」高K血症(5.5-6.5mEq/l)でありながら、その値でも何も起こらないなら構わないというわけか普通にフォローされていたことだ。確かに腎臓内科医になると6.5mEq/l以下の高K血症がそう怖くはなくなるが、個人的にはここまでカリウムを「高め安定」で外来フォローしたことはない(このスタディはアメリカ、EU、東欧で行われた)。

 患者の約4割はRAAS inhibitorを「maximal dose」内服していたことから、これくらいカリウムが高くなっても、そのリスクよりもRAAS inhibitionによるCKD進行予防のメリットを優先するプラクティスがなされているということなのだろうか。因みに高K血症による心電図変化がみられた患者さんはスタディから除外されているが、それは別の治療を受けたということなのか、それとも多少の心電図変化があっても病状とK値が安定していれば平然とフォローされているのか。

 次に驚いたのは、COI開示だ。このスタディ自体が薬を作ったRelypsa社のお金で行われたことは当然としても、investigator達が同社の株式を保有していたり、同社のみならずありとあらゆる製薬会社からfeeを貰っていたことだ。Akebia Therapeutics、Janssen、AstraZeneca、Otsuka、Amgen、Merck Sharp、Dohme、AbbVie、Novartis、Sandoz、Boston Scientific、Medtronic、Daiichi-Sankyo、Bayer、Johnson and Johnson、Oxygen Biotherapeutics、Pfizer、Tricida、scPharmatheuticals…、でるわでるわ。スタディに関わるとお金になるんだなと実感した。