2013/04/04

尿細管分泌 2/2

 1970年代初頭、米国カンザスにあるJJ Granthamの実験室では利尿剤がいかに尿細管の再吸収を阻害するかを調べていた。そのnegative controlにPAHを用いると、それまで再吸収していたウサギの近位尿細管が再吸収をやめ、なんと内腔側に体液を分泌し始めた。

 近位尿細管が体液分泌なんて誰も信じるわけがない、と再検を繰り返すが結果は同じ。1mmol/LのPAHを添加された尿細管はそれを39mmol/Lに濃縮し、内腔に0.1ナノリットル/min/尿細管mmの体液を分泌した。これは腎全体にして一日1リットルに相当するという(JCI 1973 52 2441)。

 近位尿細管だけではない。水と塩を再吸収するために授けられたはずの遠位ネフロンも、cAMPを添加するとNa+Cl-が豊富な体液を排泄する(Am J Physiol Renal Physiol 2001 280 1019)。これは腎臓にあるが役割は謎とされるCl-チャネル、CFTRを介しているかもしれない(Am J Physiol 1995 269 C683)。これらは何を意味するのだろうか。

 一日数リットルの尿細管分泌は、一日180リットルの糸球体ろ過に比べればごく微量だ。しかし、GFRが低下した時には尿細管分泌の相対的な役割が大きくなるのではないか?これを、糸球体を捨てた海水魚の腎臓に喩えて「ネフロンの海帰り」と呼ぶ人もいる(Am J Physiol Renal Physial 2002 282 F1)。

 GFRがほとんどないのに尿のある透析患者さんが、ない患者さんに比べて予後が良いことはCANUSA(JASN 2001 12 2158)はじめさまざまなスタディで示されているが、その差はいくら透析の効率を上げても補えない(KI 2006 69 1726)。

 Volume、EPO、リン排泄など色々言われているが、尿細管による有機溶質の排泄も理由の一つかもしれない。Uremic toxinの多くは有機溶質だが、これらはタンパク結合率が高く透析でなかなか除去できない。残存尿細管機能のある患者さんは、これらの毒素がたまりにくいのかもしれない(FSEB J 2011 25 1781)。

 CKDモデルラットの腎臓に有機陰イオンのトランスポーターOATPを過剰発現させると血圧が下がり、心肥大が緩和し、腎炎症マーカーが低減したというデータもある(JASN 2009 20 2546)。原始腎から伝わる尿細管分泌能のさらなる研究が、CKD・ESRD患者さんを救うカギになるかもしれない。