2013/03/21

Remote ischemic pre-conditioning

 虚血によるATNを予防する試みは、腎臓内科よりも他科のほうが積極的かもしれない(腎臓内科はATNになってから患者さんを診るから…)。今週のRenal Grand Roundでは、「術中術後のAKIをどうしたら予防できるか」を調べた麻酔科インターンがRemote Ischemic Pre-Conditioning(RIPC)について発表した。

 心筋に短時間の虚血を繰り返して起こすと、本格的に虚血になったときに虚血後再潅流障害が低減される(local ischemic conditioning)。要は、鍛えれば強くなるという体育会系の発想だ。どうも身体はそういうふうに出来ているらしい。

 そこから発展し「同様の虚血を離れた場所で起こしても、神経・ホルモン・サイトカインなどの影響は標的臓器に届くのではないか?」というのがRIPCだ。まず動物で「肢をターニケットで5分加圧(虚血)&5分リラックス(再潅流)×4セット」してから冠虚血を起こしたら、梗塞の規模が小さくなった(J Surgical Res 2012 178 797)。

 さっそく臨床でも試されて(血圧のカフで圧迫)、有効性を示すデータが出た(Lancet 2010 375 727、Circ Cardiovasc Imag 2010 3 656など)。非侵襲的な治療だから、心臓以外の臓器虚血にもついてもどんどん調べられている(今月でたレビューはJ Cardiovasc Med 2013 14 193)。

 数ある臓器のなかでも心臓の次に最も調べられているのが、腎臓。しかし、動物データはpositiveだが臨床データは小規模だし結果もまちまち。メタアナリシス(J Invasive Cardiol 2012 24 42)では効果ありと言うが、そもそも分析するスタディの質が低いのでなんとも言えない。進行中の大規模スタディが二つあるから結果を待とう。

 一つは、RIPCのCABG後急性腎障害に対する効果を調べるERICCAトライアル。英国の28病院で1610例をリクルートするという。このアウトカムの一つがAKIスコアと血中(尿中ではない)NGALだそうだ。

 もう一つは、生体腎移植患者を対象にしたREPAIRトライアル。移植前にドナーとレシピエント両方にRIPCを施すらしい。英国とオランダで400例をrandomizeして(まもなくリクルート終了)、primary outcomeは移植12ヵ月後のGFRだ。

 [2015年6月追加]米国にいる優秀なお友達から、この分野の新しい論文を紹介してもらった(doi:10.1001/jama.2015.4189)。ドイツの4病院で行われたスタディで、心臓手術前にremote ischemic pre-conditioningを行ったところ、行わなかったSham群にくらべて術後AKIが減少し、ARRが15%(95%信頼区間が2.5-27%)だったというものだ。どんどん広まるかもしれない。


[2019年11月追加]残念ながら、上記ERICCAトライアルは有意差がでなかった(NEJM 2015 373 1408)が、REPAIRトライアルでは介入群でeGFRが持続的に4ml/min/1.73m2たかかった(Br J Anaesth 2019 123 584)。