2012/04/28

Spironolactone

 心不全科(循環器内科の中でもさらに細分化した分野)のフェローから、「腎機能のない人にspironolactoneを投与して高K血症になるメカニズムはあるのか?」という質問を受けた。spironolactoneはaldosteroneの阻害薬で、 aldosteroneによる遠位尿細管でのK排泄を阻害するのが高K血症をきたす主な理由だ。それで、腎機能がない人には元から遠位尿細管でのK排泄がほとんどないわけだから高K血症にはなるまいというわけだ。

 自分の経験と記憶を瞬時に振り返り、「ある(けどどんなメカニズムか忘れた)」と返答した。そのあと腎臓内科のスタッフに聞くと、やはり同じ返答だった。それで調べてみると、腸管からのK排泄が阻害されると考えられているらしい(Current Hypertension Reports 2004 6 327)。

 実際に透析患者さんにspironolactoneを投与するとどうなるの?と調べた論文もあって、一本は高K血症になり(NDT 2003 18  2364)、もう一本は有意差が見られなかった(NDT 2003 18 2359)。だから何とも言えないが、後者はopen-label, non-randomized trialでエビデンスの質が低いし、今のところ(高K血症は)起こるという結論にしておこう。


[2020年4月13日追記]スピロノラクトンを含むミネラルコルチコイド受容体阻害薬(mineralocorticoid receptor antagonist, MRA)により、末期腎不全患者の心血管系死を予防しようという期待が高まっている(CJASN2020年4月号の総説、doi:10.2215/CJN.13221019)。





 末期腎不全患者は体液貯留傾向によりアルドステロンの産生は抑制されそうにも思えるが、実際には亢進していることが多い。そして、アルドステロン血症が高い血液透析患者ほど心血管死・総死亡リスクが高いことが示されている(Eur Heart J 2013 34 578、ただしHost Hoc)。

 では、MRAを使用した試験の成績はどうか?


 結論は・・・よいかもしれない(大規模RCTの結果待ち)。

 
 効果のあったスタディ例は、日本の血液透析患者309人を対象にスピロノラクトン25mg/d追加群を(プラセボ対称のない)非追加群と比較したオープン・レーベル試験(J Am Coll Cardiol 2014 63 528)。3年間のフォローで心血管死と入院を62%低下した。

 また2016年には、中国の血液透析患者と腹膜透析患者あわせて253人を対象にスピロノラクトン25mg/d追加群をプラセボ群と比較した試験がでて(J Clin Hypertens Greenwich 2016 18 121)、2年間で心血管死・心停止が58%低下した。

 一方、2019年にでた米国のSPin-Dスタディ(KI 2019 95 973)、ドイツのMiREnDaスタディ(KI 2019 95 983)は、いずれも血液透析患者を対象にスピロノラクトン追加群(前者は12.5mg・25mg・50mg/d、後者は50mg/d)とプラセボ群を比較したが、プライマリ・エンドポイント(前者は心拡張能、後者は左室重量インデックス)に有意差がなかった。

 もっとも、両者は短期間のフォロー(前者は36週後、後者は40週後)であり、安全性を確認するパイロット・スタディの感もある。なおその意味では、前者は高カリウム血症に有意差なく(ただしスピロノラクトン50mg/d群では上昇)、後者も6.5mEq/l以上の高カリウム血症に有意差はなかった(ただし6-6.5mEq/lは介入群で有意に高い)。

 これらをうけて現在、2つの大規模RCTが進行中だ。ひとつはALCHEMISTスタディ(NCT01848639)、825人の血液透析患者を対象に2024年完了予定。もうひとつはACHIEVEスタディ(NCT03020303)、2750人の血液・腹膜透析患者を対象に2023年完了予定という。

 
 ブレイクスルーが期待される腎臓内科領域であるが、やはりコストパフォーマンスがよいのは、既存の薬を転用・適応拡大することだ。今後、MRA使用が腎臓内科領域で広がっていくかどうか、注目したい。ただその暁には、新規カリウム吸着薬の使用もぐんと増えるだろうが・・(こちらも参照)。