2011/12/29

Balkan endemic nephrology

 旧ユーゴスラビア移民で血尿(dysmorphic RBCs、negative cystoscopy)とタンパク尿(Upro/Ucr 0.9)、それにCKDのある患者さんを診察して「どうも腎外症状に乏しいし、よくわからないから一通り検査して腎生検かなあ」と思いつつボスに相談したら、まず「どこの街出身か聞いてこい」という。そして戻ってくると彼がパソコンにインターネットで調べたユーゴスラビアの地図(Kidney Int Suppl 1991 34 S9–S11からの転載)を広げ、「これは何だ」という。
 何のことやらサッパリ分からずいると、この地図はBalkan Endemic Nephropathyのendemic areaを示したものだという。主に、ドナウ河の支流Sava河に沿って点在している。彼は患者さんの出自を聞いてすぐさまこの疾患を思い浮かべたらしい。もっとも、血尿はあまりみられない(urothelial tumorがあれば別だが)し、proteinuriaの程度もちょっと多いし、IgA腎症など他の疾患かもしれない。腎生検をすることになったので、結果を待つことにしよう。典型的にはtubular atrophy、severe fibrosis、それにatypiaがみられるらしい。
 雑誌のエディトリアル(KI 2006 69 644)とUpToDateによれば、病因はいまだによく分かっていない。environmental factorとgenetic factorが考えられている。前者ではochratoxin A(真菌の毒素、穀物を地中で冬季保存するためか?)、aristolochic acid(Chinese herb nephropathyの主因)などが有力視されている。後者では3q24-26あたりの遺伝子異常、それにp53異常が見つかったりしている。endemicな村に長らく住んでいても罹らない人がいたり、家族歴があっても村に長くいなければ発症しなかったりするので未だに真相は謎だ。