2011/09/10

RTAふたたび

 回診で、例の教え上手な先生が尿細管性アシドーシス(RTA)、遠位RTAと近位RTAのことを説明した。しかしRTAは難解なので、さすがの先生でも「なぜそうなるのか」をすべて明らかにして解説するのは大変げだったが。彼の説明を復習して、自分で教えるときのための糧にしよう。

 彼はまず、アメリカの一般的な食事では酸を1mEq/kg/dayくらい摂取するというところから始めた(主なsourceは肉)。身体が酸性にならないように、腎臓ではH+を遠位尿細管の介在細胞から捨てている。遠位尿細管でNa+が再吸収されることによるnegative driving forceが、代わりにK+とH+を捨てさせる仕組みだ。

 それに対してHCO3-は、腎臓でほとんど捨てられることはなく、近位尿細管で90-95%、わずかな残りを遠位尿細管で再吸収している。腎臓がHCO3-を捨てるのは、体内にHCO3-が充満している時([HCO3-]が24以上の時)で、この時には尿pHがアルカリ性になる。しかしこれは例外的で、尿pHがアルカリ性になるのは他に、urea-splitting organism(proteus, saprophyticus, some E. coli)、それにRTAくらいしかない。ただし近位RTAでは血中から運ばれてくるHCO3-の量によって尿pHは変わる。アシドーシスが進むと[HCO3-]が下がるので少ししか尿中にHCO3-が来ず、それらの幾分かは遠位尿細管で再吸収されるので尿pHは下がる。

 尿中に捨てられたH+は、そのままでいることはなくNH3バッファーと結合してほとんどNH4+になる。だから遠位尿細管で酸排泄が出来ているかどうかは、尿中NH4+を調べれば分かる。おなじnon-AG metabolic acidosisでも、酸排泄が出来ない場合には尿NH4+は低下するし、腎外でHCO3-を喪失している場合には腎は代償的に酸を排泄しているはずだ。

 しかし尿NH4+は簡単には計測できないので、代わりに尿anion gap(UNa+UK-UCl)を用いる。これはanion gapというが要は尿中のunmeasured anion - unmeasured cationを計算している。尿HCO3-がないのは、前述のようにHCO3-はほとんど再吸収され尿中には無視できるほどしか残らないからだ。NH4+はcationだから、これが多ければ尿anion gapはマイナスとなり、少なければプラスとなる。ちなみにHCO3-はanionだから、これが多くてもプラスになる。と言うわけで全てのRTAで尿RTAはプラスになるはずだ。

 ただし尿anion gapが使えない場合が二つある。ひとつは尿Naが低値(less than 20mEq/l)の場合で、distal sodium deliveryがないのでnegative driving forceが起こらずH+も排泄できない。二つ目はunmeasured acidがある場合で、たとえばhippuric acid(トルエン中毒)やketoacidosisなどではこれらがunmeasured anionなので尿anion gapが使えない。この時には尿osmolar gapによって尿NH4+を推定する。

 近位RTAでは尿管結石が見られないのに対して遠位RTAではみられる理由も習った。RTAに限らず、アシドーシスがあると近位尿細管でのanion再吸収が亢進し、bicarbonateのみならずcitrateも再吸収される。尿中のcitrateは尿中Ca++が石を作らない様にbufferしているので、これがなくなると石ができやすくなる。ところが近位RTAではcitrateの再吸収が起きないため石ができない。

 遠位RTAでも前述の理由(citrateが再吸収される)により石が出来やすいが、普通の石(calcium oxalate)ではなくcalcium phosphate stoneができる。それは尿pHがアルカリ性になるからだ。calcium phosphate stoneができるのは他に、hyperparathyroiismなどがある。PTHはphosphateをどんどん尿に捨てるホルモンだし、骨からCa++を遊離させて血中からどんどん尿にCa++を運んでくるし、Vitamin Dを25-OHから1,25-OHにして腸管からのCaとPの吸収を促進するからだ。

 他にも、なぜ近位RTAはbicarbonateに不応で遠位RTAはbicarbonateに反応するかとか、いろいろ習ったがこれくらいにしておこう。RTAは深淵なテーマなのでこれからも何度もrevisitすることになりそうだ。いろいろ読んでいろいろ聞いて、自分なりの説明ができるようになれば良いと思う。そして、経験を積んで自信を持って教えたり診療したりできるようになりたい。